DEEP CUTS

天才の隣で働いてた奴らの話

King Tubbyの家は学校だった。ScientistとPrince Jammy、弟子たちがダブを職業にして、そして時代ごと塗り替えた。

REGGAEDUBSCIENTISTSLENG TENG

天才の話は楽なんだ。逸話が勝手に転がってるから、拾って並べれば原稿になる。困るのは、天才の隣で働いてた連中の話だ。逸話が少ない。地味だ。だが音楽ってのは、だいたいそいつらが未来に運んでる。

今回はその話をする。King Tubbyの弟子たちの話だ。

その前に寄り道をする。もう慣れただろう。

店をやってた頃、バイトの若いのがいた。最初に教えたのはレジ打ちじゃなくて検盤だ。盤を光にかざして、傷を読む。この傷は鳴る傷か、鳴らない傷か。値札を書くのはその後でいい。あいつは呑み込みが早くて、俺が半日かけて覚えたことを午前中に覚えた。腹が立ったから、翌日はもっと難しいことを教えた。それの繰り返しで、気づいたら俺の店で一番目利きになってた。いまはどこか別の街で中古盤屋をやってると聞いてる。店の名前は知ってるが、書かない。宣伝になるのが癪だからだ。

一つだけ付け足すと、あいつは最後の出勤日に、俺の私物のダブ盤を一枚だけ黙って持っていった。どれを選んだかは言わないが、選盤が正しすぎて怒れなかった。技術の継承ってのは、最後は盗みの形をとる。教えたことより、盗まれたものの方が、たぶん深く残る。

なんでこの話をしたかというと、King Tubbyの家がまさにこれだったからだ。

Waterhouseのあの家は、スタジオであると同時に学校だった。電子工学を修めた親方の下に、若いのが出入りする。機材の修理を覚え、卓の触り方を覚え、そのうち親方が席を外した隙にダブを一枚ミックスする。そこから出てきたのがPrince Jammyであり、Scientistだ。

Scientistの話をさせろ。本名Hopeton Brown。十代でTubbyの卓に座った早熟の技師だ。あんまり若いのに理屈が通ってるもんだから「科学者みたいだ」と呼ばれたのが名前の由来だと語られてる。1980年前後、この小僧が量産したダブのアルバム群がすごい。『Scientist Rids the World of the Evil Curse of the Vampires』——「サイエンティスト、吸血鬼の呪いから世界を救う」。他にも宇宙人と戦ったり、ワールドカップを制覇したりする。ジャケはアメコミ調で、卓の前の技師がヒーローとして描かれてる。

わかるか。ミキシングエンジニアがだぞ。歌手でもバンドでもなく、卓の前に座ってる裏方が、ジャケットの主役を張ったんだ。ダブって発明のいちばん過激なところはここだと俺は思ってる。裏方って言葉を、ジャンルごと廃語にした。

俺は当時、このシリーズを「ジャケがふざけてる」と思って後回しにした。買ったのは数年遅れだ。聴いて、椅子から立った。店主人生でやらかした後回しの中でも、上位に入る。以来、ジャケで音を見くびるのをやめた。人を見た目で判断するなってのは、盤にも適用される。

で、もう一人の弟子、Prince Jammyだ。こっちは親方の跡を継ぐようにKing Jammyを名乗る。そして1985年、事件を起こす。

Wayne Smithの「Under Mi Sleng Teng」。土台になったのは、カシオの小さなキーボードMT-40に入っていたプリセットのリズムだ。楽器屋で売ってる家庭用の機械の、内蔵の伴奏。それをダンスホールの重さで鳴らした瞬間、レゲエの伴奏は生バンドからコンピューターに切り替わった。歴史の教科書が「デジタル以前/以後」とページを分ける、その境目の音だ。

考えてみろ。親方のTubbyは、録音済みのテープを卓の上でもう一回演奏した男だ。弟子のJammyは、おもちゃのキーボードを国民音楽の土台にした男だ。ついでに言えば、親方自身も晩年はデジタルに背を向けなかった。80年代のTubbyの周辺録音を聴くと、あの修理屋がコンピューターの音を平然と飼い慣らしてるのがわかる。二人とも同じことをやってる。「正しい機材」という考え方を疑ってる。音楽ってのは、機材の値段の順に生まれてくるわけじゃないんだよ。四畳半のBlack Arkの話を先週書いたばかりだが、あれと同じ理屈が、ここでも通ってる。

Tubbyは1989年に死んだ。第1回に書いた通りだ。もう一度だけ言わせろ。撃たれて死んだんだ、あの人は。だがWaterhouseの学校で仕込まれた技術は、弟子の中で生き延びて、形を変えて、時代を二回も三回も塗り替えた。

天才は死ぬ。技術は弟子の中で化ける。俺が検盤を教えたバイトの店が今も回ってるのと、規模は違うが、理屈は同じだ。……いや、同じってことにしておいてくれ。今夜は酒がうまい方の結論で終わりたい。

疑うなら『Under Mi Sleng Teng』を配信で鳴らしてみろ。四十年前のおもちゃの音が、今のトラップの808と地続きに聴こえるから。

(次回・最終回: ダブが世界に染みた話。ロンドン、東京、そしてお前のイヤホンの中まで)

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