DEEP CUTS

同じ演奏で何曲生まれた?——リディムという相乗りの経済

棚に並ぶ、同じオケで別の歌の7インチたち。安いカシオのプリセットが数百曲の土台になった話まで、リディム文化を店の現場から。

RIDDIMSLENG TENGDIWALIDANCEHALL

若いのが店で7インチを三枚持ってきて、首をかしげてた。「これ、全部同じ曲じゃないですか?」。違う。全部同じ演奏で、全部違う曲なんだよ。歌ってるやつも、曲名も、レーベルの色も違う。下で鳴ってるオケだけが同じ。ちなみに三枚とも、うちの五百円箱から出てきたやつだ。レゲエの棚ってのはそういう作りになってる。初見の客は必ず一回この顔をする。俺はこの顔を見るのが好きで、この商売を続けてるところがある。

リディムって言葉の説明を一応しておく。演奏のこと、オケのことだ。ただしレゲエでは、オケが一曲の持ち物じゃない。一本のリディムの上に、何人もの歌い手が別々の曲を乗せる。それが正式な作法で、盗作でも手抜きでもない。7インチのB面にはよく「version」って名前で歌抜きが入ってた。あれは余白だ。次に歌うやつのために、席が空けてある。オケが共有財で、歌が勝負。同じ土俵で歌だけを競う形式が、サウンドシステムの現場と一緒に育った。

ここで一回脱線する。嫌なら一段落飛ばしてくれ。うちの棚には値札の書き換え跡が残ってる盤が何枚もある。二百円が消されて千五百円になってるやつ。理由は決まって、そのリディムの上の「別の曲」が後から当たったからだ。歌が当たると、同じオケの兄弟盤まで全部起きる。一曲のヒットが、棚の横一列をまとめて叩き起こす。リディムってのは、盤一枚の中じゃなくて、棚の横方向に生きてるんだよ。

で、本題の「何曲生まれた?」って話だ。一番でかい実例を出す。1985年、Wayne Smithの「Under Mi Sleng Teng」。King Tubbyの弟子だったJammyのスタジオから出た曲で——弟子たちの話は前に書いたから省くが——この曲の土台は、カシオの家庭用キーボードMT-40に入ってたプリセットのリズムだ。ロック用として仕込まれてた自動伴奏を、テンポを落として使った。作ったのは楽器メーカーの社員で、奥田広子という日本人だ。本人の証言がちゃんと残ってる。で、このリディムの上に何曲乗ったか。数百曲とされる。正確な数は誰も数え切れてない。今も増えてるからだ。

静岡だか東京だか、日本のオフィスで書かれた数小節が、キングストンの夜を四十年動かしてる。……なんて言うと綺麗すぎるな。要は、安い機械に入ってたおまけが、島の音楽の作り方と噛み合っちまったって話だ。デジタルになってオケの複製に金がかからなくなった分、リディムの相乗りは前より速く、前より遠くまで回るようになった。

もう一個、新しめの実例。2002年のDiwali。Lenkyってプロデューサーが作った手拍子のループで、Sean Paulの「Get Busy」も、Wayne Wonderの「No Letting Go」も、同じこのリディムの上に立ってる。別々の大ヒットが、下では同じ一本を共有してた。米国のチャートを同じオケの別の曲が並んで走ってたわけだ。棚の横一列が、そのままヒットチャートになったようなもんだよ。

現場での使われ方も書いておく。サウンドシステムの世界にはジャグリングって掛け方があって、DJが同じリディムの盤を何枚も続けて繋ぐ。オケは変わらないまま、歌い手だけが次々に入れ替わる。フロアで浴びると、これがちゃんと一本の長い曲に聴こえるんだよ。土台が動かないから、客は腰を止めずに、歌の交代だけを楽しめる。リディムってのは録音の作法であると同時に、現場の道具でもあるってことだ。7インチが軽くて安い理由も、たぶんここにある。一晩で何十枚も掛け替える商売道具は、重くて高くちゃ話にならない。

なんでこの形式が枯れないか。俺は競争の設計がうまいからだと思ってる。オケを固定すると、差が出る場所が歌と節回しだけになる。逃げ場がない。同じリディムの上では、うまいやつがうまいって一発でバレる。姑息な差別化が全部封じられて、声と節回しと言葉の選び方だけが残る。だから同じリディムの兄弟盤を聴き比べるのは、歌の勉強として一番手っ取り早い。DTMやってる若いのに言っておくと、一つのオケに何人も乗るのは楽をしてるんじゃなくて、一番きつい勝負の形式を選んでるんだ。ブラウザでリディムの型を組み替えて遊べる道具も今はあるらしい。うちに来る若いのがRIDDIM MUTATORって画面を見せてくれた。芯を残して型を変える、って発想はまるっきりバージョン文化のそれで、俺は針を替えながら、ちょっと笑った。

ってわけで、聴く順番だ。まず「Under Mi Sleng Teng」で土台を覚える。次にTenor Saw「Pumpkin Belly」。同じ土台の上で、歌でここまで景色が変わるってことがわかる。締めはSean Paul「Get Busy」で、この作法が世紀をまたいで現役なのを確認しろ。同じ演奏で何曲生まれたか。数えるだけ無駄だ。知らんけど聴け。

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