DEEP CUTS / 2026.07.03
リアルとテックの間で、J-HIPHOPはまだ汗をかいている
千葉雄喜/KOHH、Creepy Nuts、SHO、Watson、JP Drill、生成AI。全部が同じテーブルに乗ってしまった今、J-HIPHOPは広がったというより、速すぎて少しはみ出している。
正直、今のJ-HIPHOPは速すぎる。追っているだけで息が切れる……いや、落ち着いて書く。『チーム友達』がスマホの中で増え、Creepy Nutsはアニメの扉から海外へ抜け、徳島や千葉や横浜の声は地元の湿度を落とさず画面に出る。その横で、生成AIはビートも声もそれっぽく作れる顔をしている。
便利、速い、うまい。そこはもう当たり前になった。でも当たり前になった瞬間に、逆に人間の雑さが見えてくる。声が少し割れる。仲間の顔が映る。地元の呼び方が残る。僕はいつもそこに引っかかる。まだうまく言えないけど、たぶんこの「雑さ」の話が、今回いちばん書きたいことだ。
千葉雄喜/KOHHが開けたドア
『チーム友達』は、復帰曲というより、路上に投げられた合図だった。THE FIRST TIMESの記事によれば、千葉雄喜は2024年2月13日に同曲を配信リリースし、同時にMVも公開した。KOHHを待っていた耳が、千葉雄喜という本名で戻ってきた声に一気に向いた。このリアクションの速さ、正直えぐい。
フックは短い。説明は少ない。なのに、あの一言で人が寄ってくる。少しこわいくらい単純で、だから強い。曲はミームの手前で止まらず、Remixや映像で顔を増やしていった。孤独を解説する曲じゃない。友達を呼び出す曲だ。
Creepy Nutsは別ルートを通した
Creepy Nutsの『Bling-Bang-Bang-Born』は、J-HIPHOPが外へ出る道を別角度で見せた。Music Awards Japanの公式ページでは、同曲がBest Japanese Hip Hop/Rap Songなど複数カテゴリに入っている。ORICONも、Creepy NutsがMUSIC AWARDS JAPAN 2025で計9冠を受けたと報じた。9冠って書いてて自分でも二度見した。
アニメタイアップを、ヒップホップを薄める装置だと見るのは、たぶん古い。R-指定の言葉は速いし、DJ松永のビートは軽く見せてかなり硬い。メロえぐいんだよな、あの曲。海外のリスナーが最初に触れる場所がクラブでなくてもいい。入口が増えるなら、それも勝ち方だ。少し悔しいけど。
ローカルはもう周辺じゃない
WatsonとKoshyの『Soul Quake』シリーズを追うと、ローカルの強さが見えてくる。FNMNLの2026年インタビューでは、徳島出身のWatsonとプロデューサーKoshyが、シリーズ3作目をめぐって話している。大事なのは、東京に来たから勝ったという話ではない。徳島のまま届いていることだ。
正直、僕は徳島に行ったことがない。「地元の温度」を偉そうに語る資格はないけど、画面越しでも質感だけは伝わってくる。現場を踏めてない分、せめて曲は繰り返し聴いた。
SHOも別の形でそれをやっている。KENDRIX Mediaのインタビューでは、SHOが長くストリートとSNSを主戦場にしてきた姿勢が語られている。きれいな勝ち方ではないのかもしれない。けど、きれいじゃないから画面で止まる。言葉が覚えやすい。映像が強い。本人の温度が先に来る。正面玄関だけじゃなく、横のシャッターを開けて入ってくる感じがある。
ドリルは冷たいまま必要だ
J-HIPHOPが生活の中に入ってきた分、ドリルの冷たさも必要になっている。FNMNLのDouble ClapperzとMr.PUGによる特集は、ドリルの負の側面に触れつつ、サウンドとしての先鋭性を見ている。ここは大事にしたい。
808が滑る。ハイハットが細かく走る。声は笑っていない。ドリルは物騒扱いされがちだけど——いや、それ古くないすか。危ない雰囲気だけで消費されてた時代はとっくに終わってる。正直、聴いてると落ち着かない。でもその落ち着かなさが、ポップスに寄っていくJ-HIPHOPへ一本線を引く。世界のビート感覚と日本語の硬さがぶつかる場所。そこは、まだ全然きれいに片付いていない。
AIは便利。でも全部は持っていけない
生成AIは、音楽制作のハードルを一気に下げた。プロンプトから歌詞や曲を出すサービスも増えたし、声やビートの模倣も近くなっている。だからこそ、権利の話は避けられない。文化庁はAIと著作権に関する考え方やガイダンスを公開しているし、JASRACもAIを利用した作品の取り扱いを示している。
怖い。声やビートが似てしまうなら、何を本人と呼ぶのか、簡単には言えなくなる……いや、落ち着いて書く。でも、AIが全部を持っていく感じはまだしない。ヒップホップは音だけでは成立しないからだ。誰が、どこで、誰と、どんな距離で鳴らしたのか。AIはパターンを出せる。でも、地元の仲間に電話して、MVに集めて、うまくいかない空気ごと残すことはできない。そこは、まだ人間の不器用さが勝っている。
結局、体温が残る
J-HIPHOPは、もうアングラだけのものではない。アニメ、TikTok、フェス、ファッション、AI、地方都市、全部とつながっている。だから薄くなった、とは思わない。むしろ、薄くなる危険と、濃くなる場所が同時に増えた。
僕は、全部が速いことに正直まだ少し腹が立ってて、追いつくだけで精一杯で——でも、それ以上に見ていたい。バズの裏に冷たいドリルがある。AIの横に地元の声がある。大きいステージの奥に、狭い部屋で作った一行がある。J-HIPHOPはきれいに整理された瞬間より、少しはみ出している今のほうが生きている。
出典
THE FIRST TIMES: 千葉雄喜『チーム友達』 Music Awards Japan 2025: Awards ORICON NEWS: Creepy Nuts 9冠 Creepy Nuts: ASIA TOUR 2025 FNMNL: Watson × Koshy『Soul Quake 3』 KENDRIX Media: SHO interview FNMNL: Double ClapperzとMr.PUGが選ぶドリル20選 文化庁: AIと著作権について JASRAC: 生成AIと著作権に関する方針・取り組みKEEP READING