知ってる曲から
ヒップホップをゼロから、と言ったが、実はゼロの人はほとんどいない。小沢健二とスチャダラパーの「今夜はブギー・バック」を、サビだけでも歌える人は多いはずだ。あれはまぎれもなくヒップホップで、つまり、もう聴いたことがあるのだ。知らないだけで、もう好きかもしれない——ここから始める。
「今夜はブギー・バック」をあらためて聴くと、歌とは違う話し方をしていることに気づく。メロディを歌い上げるのではなく、リズムに言葉を乗せて刻んでいく。これがラップだ。歌うんじゃなく、しゃべるんでもなく、その中間の第三の発声。
もう一つ気づくことがある。バックの演奏が、ずっと同じフレーズを繰り返している。これはループといって、ヒップホップの伴奏(トラック)の基本形だ。同じ数小節が回り続けるから、言葉の変化が際立つ。伴奏が動かない分、ラップが動く。この分業がこの音楽の設計になっている。
最後にもう一周、今度は言葉の音だけ聴いてみる。意味を追わず、音として。母音が揃う瞬間——「韻」が、ところどころで気持ちよく鳴っているはずだ。意味とリズムと音の響きが同時に成立したとき、ラップは快感になる。
今日はこれで十分。ラップは第三の発声、トラックはループ、韻は母音の響き。この三つの感覚を持って、次の段で仕組みの中に入る。