FKJとMasegoが更新するブラックミュージックの艶 のビジュアル

DEEP CUTS / SASAKI KUSH #001

FKJとMasegoが更新するブラックミュージックの艶

二人を「ジャズっぽい」「お洒落」で済ませると、低域と即興の手触りを落とす。FKJとMasegoの音には、ラップ以後の耳で組み直されたブラックミュージックの作法がある。

BLACK MUSICJAZZR&BREGGAE

アイドルのカップリングに、妙にいいエレピが入っている日がある。朝方のディープテクノで、キックの隙間だけが温かい夜もある。そういう耳でFKJとMasegoを聴くと、二人は「ジャズを今風にした人」では終わらない。

ブラックミュージックが持ってきた即興、低域、反復、呼応、身体の揺れ。それを、配信時代の部屋とラップ以後の耳で組み直している。音はなめらかだが、ただのBGMではない。むしろ、薄く聴かれることを拒む音楽だ。たぶん、低域の話だ。

艶はBGMではない

FKJとMasegoは、どちらも「お洒落」な棚に入れられやすい。夜、服、部屋、コーヒー、そういう画に合う。だが、合いすぎるせいで、音楽の芯が見えなくなることがある。

FKJはピアノ、ギター、サックス、声を、主役の奪い合いにせず、層として重ねていく。Masegoはサックス、ループ、歌、ラップ的な間をひとつの身体に束ねる。二人とも、ジャンルの境界を消すのではない。境界をまたいだあとに残る手触りを磨いている。

FKJは音を部屋に戻す

Mom + PopのFKJ紹介によれば、『22_23 Live Sessions』は2022年秋から2023年春のステージ録音で、初めてバンドを組んだ時期の記録だ。ひとりで完結するループから、他者と鳴る空間へ少しずつ広がっている。

MusicRadarのインタビューでFKJは、『V I N C E N T』期の制作について、ラップトップを制作機というより録音機に近く使い、モジュラーやシンセから音を録っていたと話している。洗練は無菌のソフトウェア感ではなく、鳴った音をどこまで生きたまま残すかの判断から来ている。

『Ylang Ylang』(2019年のEP、Bas参加『Risk』収録)はその判断がよく分かる一枚だ。一回、音量下げて聴いてください。音色は柔らかいのに、輪郭は緩まない。湿度だけで聴かせるほど、実は冷静な音楽だ。

Masegoはサックスを名刺にしない

Masegoはサックスの人、と言われる。間違ってはいないが、それだけで聴くと少し浅い。British GQのインタビューで、Masegoは自分のスタイルを"trap house jazz"と呼び、その感覚を「ignorance meets eloquence」と説明している。

サックスがあるからジャズなのではない。トラップの反復に、ジャズの身振りが混ざっているからジャズなのだ。教会、R&B、ラップ、ハウス、カリブの湿り気。その全部をひとつの声とステージングで受け止めている。

2016年『The Pink Polo EP』、2017年『Tadow』、2018年『Lady Lady』。並べて聴くと線がはっきり見える。2023年のセルフタイトル作では、ピアノ、トラップ、ダンスビート、サックスをひとつの音像に混ぜた。ムードの人ではなく、設計の人だと思う。

即興は遊びで終わらない

『Tadow』の映像が強いのは、二人が楽しそうだからではない。もちろん楽しそうではある。ただ、あの場で起きているのは偶然の記録ではなく、即興を構造へ変える速度だ。三回聴き直すと、笑ってる位置がだんだんズレてくるのが分かる。あれは反応の速さの証拠だ。

Abletonの「Principles of Black Music: Improvisation」は、即興を、音をその場で組織し、繰り返し、洗練させていく行為として説明している。自由に見えるが、自由だけではない。反応する耳と、止める判断がある。

僕は、恋愛より音楽を選んできた時間のほうが長い。褒められた話ではないが、そのぶん分かることもある。良い即興は、だらしない夜更かしと似ている。偶然に見えて、残るものだけがきちんと朝まで残る。……この話はここまでにして、音に戻る。

ラップとカリブへ伸びる線

ヒップホップへの接続は見えやすい。FKJの『Risk』にはBasがいる。MasegoはDrake『Champagne Poetry』のクレジットにも名前が出る。JID、Rapsody、Big Boiとの仕事では、ラップの硬さを消さず上質なR&Bの艶を足している。

レゲエ、ダンスホール側ではMasegoの線がより直接的だ。Shore Fireは『Silver Tongue Devil』を、Shenseeaを迎えた曲として紹介し、Masegoのサックスのフレーズにも触れている。Michaël Brun、Jozzy、Baykaとの『Charge It』では、uDiscoverがCoupé-décalé、Jazz、Dancehallの交差に言及している。FKJのほうは、レゲエへの直接クレジットを大きく言いすぎないほうがいい。ただ、FKJの空間処理と低域の置き方は、ダブ以後の「引くことで前に出る」感覚とかなり近い。影響があったと言い切る話ではなく、耳の使い方が近いという話だ。

静かな更新

2026年に入っても、二人の線は止まっていない。FKJは『Tyber』へ向かい、Lucy Park、Baby Rose、Bas、Eryn Allen Kane、Labrinthらの参加も報じられている。Masegoは2026年6月に『Breathe』をリリース。Universal Music Canadaの発表には、40公演を超える「Fix Your Face」ツアーの予定も並んでいる。

二人が次に向かうのは、配信用の雰囲気音楽ではないと思う。生演奏と高級な音像を両立させた、大きい場所にも耐えるブラックミュージックだ。FKJとMasegoは、ジャズを引用しているのではない。余白、低域、即興の気配を、いまの再生環境で鳴らしている。上質なのに冷たくない。僕はそういう音を、わりと信用している。

出典

FKJ & Masego: 『Tadow』official studio session Mom + Pop: FKJ artist profile Bandcamp: FKJ『French Kiwi Juice』 Apple Music: FKJ『Ylang Ylang - EP』 MusicRadar: FKJ interview on『V I N C E N T』 indienative: FKJ『Tyber』release report Apple Music: Masego artist profile Apple Music: Masego『Masego』 British GQ: Masego interview Hypebeast: Masego self-titled album interview Universal Music Canada: Masego『Breathe』press release Ableton: Afriqua presents Principles of Black Music: Improvisation Shore Fire: Masego『Silver Tongue Devil』feat. Shenseea uDiscoverMusic: Michaël Brun, Masego, Jozzy & Bayka『Charge It』

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