DEEP CUTS

アマピアノは腰にきて、味噌汁は腹に落ちる

南アフリカ生まれのログドラムと、朝の台所の煮干し出汁。低音の話を二つする。連載「クラブ帰りの朝飯・第一部」第1回。

AMAPIANOLOG DRUM南アフリカ朝飯

朝六時。始発で帰って、台所に立つ。鍋に水、煮干しを数本。ガスの火は弱め。飯は昨夜のうちにタイマーで炊けている。ガス会社の人間として言うが、飯は電気よりガスで炊いたほうがうまい。営業トークではなく、食った上での結論。

連載を始める。クラブ帰りの朝飯の話だ。夜にフロアで鳴っていた音と、朝に食う飯をセットで書く。第1回は、昨夜のアマピアノと味噌汁。

アマピアノ。ズールー語で「ピアノたち」。2010年代半ばに南アフリカのハウテン州で生まれた。ヨハネスブルグ発ともプレトリア発とも言われていて、要するに全員が「うちの地元の音だ」と言っている。いいジャンルはだいたいそうなる。

この音の心臓がログドラムだ。低くて、丸くて、木の胴を叩いたような電子ベース。プロデューサーのMDU aka TRPが広めたとされていて、第一人者のKabza De Smallも「MDUがあの音を見つけて、そのまま走った」と語っている。スピーカーの前に立つとわかるが、ログドラムは耳ではなくみぞおちで聴く音だ。四つ打ちのキックが腰を後ろから押すのに対して、ログドラムは内臓を横から揺らしてくる。初めて浴びた夜、自分は搬入口の脇で立ったまま、並盛と大盛りの差くらい確実な違いを体に刻まれた。

ログドラムの上に乗るのは、ジャンル名の由来でもあるピアノだ。ハウスより遅いテンポで、鍵盤がきらきらと漂って、下でログドラムがずしんと鳴る。上は空、下は地面。この上下の距離の広さがアマピアノの気持ちよさで、フロアの天井が一段高くなったような錯覚がある。

広がり方も変わっていた。この音は最初、ラジオにかけてもらえなかったとされる。代わりにWhatsAppで音源が回り、ミニバスタクシーの車内スピーカーが電波の代わりをした。タクシーがクラブで、運転手がDJ。電波を使わずに国を一周した音楽だ。

2023年にはTyla『Water』が全米チャートに入って、この音は世界の共通語になった。東京も例外じゃない。2022年からAMAPINIGHTというパーティーが各地で回っていて、フロアの後ろ三列——元裏方はいつもそこを見る——までちゃんと踊っていた。後ろ三列が動く夜は本物だ。日本人プロデューサーのaudiot909は和製アマピアノを作っていて、この国の湿度に合うログドラムを探し続けている。

で、朝の味噌汁だ。煮干しの出汁が沸く直前の、鍋の底が低く鳴るような匂い。あれとログドラムは同じ仕事をしていると思う。表に出ない。名乗らない。でも全部を下から支えていて、抜いた瞬間に世界が薄くなる。出汁は味噌汁のログドラム。ログドラムはフロアの出汁。……いや、これは疲れてるだけだ。

昨夜、ログドラムの上で肩を組んで笑い合う二人がいた。照明卓にいた頃の癖で目で追ってしまった。ああいうのは音より速く成立する。知ってた。

まあ、朝飯の話に戻る。味噌は火を止めてから溶く。沸かした味噌汁は出汁が飛ぶ。ガス炊きの飯に、湯気の立つ味噌汁。腰にきた夜の後は、腹に落ちる朝でいい。うまかった。

スマホで聴くなら『Lorch』から。ログドラムが何なのか、最初の三十秒でみぞおちが理解する。そのままTyla、audiot909と進めば、南アフリカの発明がどこまで来ているか、朝飯一回分の時間でわかる。

(次回: ベッドの軋みが街の音になった——ジャージークラブの夜と紅生姜)

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