LESSON / HIPHOP

ヒップホップ、ゼロから

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知ってる曲から、元ネタの森まで

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LV1

知ってる曲から

ヒップホップをゼロから、と言ったが、実はゼロの人はほとんどいない。

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知ってる曲から

ヒップホップをゼロから、と言ったが、実はゼロの人はほとんどいない。小沢健二とスチャダラパーの「今夜はブギー・バック」を、サビだけでも歌える人は多いはずだ。あれはまぎれもなくヒップホップで、つまり、もう聴いたことがあるのだ。知らないだけで、もう好きかもしれない——ここから始める。

「今夜はブギー・バック」をあらためて聴くと、歌とは違う話し方をしていることに気づく。メロディを歌い上げるのではなく、リズムに言葉を乗せて刻んでいく。これがラップだ。歌うんじゃなく、しゃべるんでもなく、その中間の第三の発声。

もう一つ気づくことがある。バックの演奏が、ずっと同じフレーズを繰り返している。これはループといって、ヒップホップの伴奏(トラック)の基本形だ。同じ数小節が回り続けるから、言葉の変化が際立つ。伴奏が動かない分、ラップが動く。この分業がこの音楽の設計になっている。

最後にもう一周、今度は言葉の音だけ聴いてみる。意味を追わず、音として。母音が揃う瞬間——「韻」が、ところどころで気持ちよく鳴っているはずだ。意味とリズムと音の響きが同時に成立したとき、ラップは快感になる。

今日はこれで十分。ラップは第三の発声、トラックはループ、韻は母音の響き。この三つの感覚を持って、次の段で仕組みの中に入る。

LV2

仕組みの快感

ヒップホップの曲には、はっきりした設計図がある。

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仕組みの快感

ヒップホップの曲には、はっきりした設計図がある。それが読めると、同じ曲が倍面白くなる。部品は四つだ。

バース。一人のラッパーがまとめてラップする区画。曲の「本文」で、言いたいことはここに詰まっている。フック。繰り返されるサビ。耳に残る釣り針で、バースが読ませる部分なら、フックは口ずさませる部分。多くの曲は「バース→フック→バース→フック」で進む。この骨組みは洋楽でも日本語ラップでも同じだ。

フロウ。言葉をどんなリズム、どんな譜割りで乗せるかという、ラッパーごとの泳ぎ方。同じビートでも、フロウが違えば別の曲に聴こえる。声質とフロウはラッパーの指紋で、好きなラッパーができるとき、たいてい人はフロウに惚れている。

客演。他人の曲に招かれて参加すること。「feat.」の表記がそれで、ヒップホップでは日常茶飯事。誰が誰を呼んだかで人脈と勢いが見える、この文化ならではの楽しみだ。大人数で順番にバースを繋ぐ曲はマイクリレーと呼ばれる。

設計図を確かめるのに良い教材が、キングギドラ『空からの力』(1995)だ。日本語で韻を踏む方法を設計図の水準で示したとされる一枚で、母音が揃う瞬間がはっきり聴き取れる。1曲でいい、「韻はどこで鳴ったか」だけ気にして聴いてみる。仕組みが見えた瞬間、ただ流れていた言葉が、組まれた建物に見えてくる。

LV3

50年を10分で

ヒップホップは50年ちょっとの音楽だ。

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50年を10分で

ヒップホップは50年ちょっとの音楽だ。歴史の全部は要らないが、背骨の4点だけ知っておくと、どんな曲を聴いても地図の上に置けるようになる。

1973年、ブロンクス。ジャマイカ移民の18歳、DJ Kool Hercが、パーティでレコードの間奏部分(ブレイク)だけを2枚使いで引き延ばした。踊るための数十秒を無限にする発明。ここでヒップホップの時計が動き始める。ラップは最初、そのブレイクの上でマイクを握った者の口上だった。

1980年代後半、サンプリングの時代。過去のソウルやファンクのレコードから数秒を切り取り、組み直して新しいビートを作る手法が中心になる。過去の音楽を素材に未来の音楽を作る——ヒップホップの一番深い発明はこれだ。Grandmaster Flash & The Furious Five「The Message」(1982)からPublic Enemyの音の壁まで、この時代の音は今も「教科書」と呼ばれる。

1990年代、地図の拡大。ニューヨークだけの音楽ではなくなる。西海岸、南部、そして日本。1996年の東京では、さんピンCAMPというイベントで日本語ラップのシーンが初めて一望できる形になった。

2010年代以降、トラップと配信。アトランタ発の808の低音とハイハットの刻みが世界標準になり、SoundCloudやTikTokが才能を運ぶ回線になった。ちなみにこの808、元は商業的に失敗した安いリズムマシンだ。安い機材が時代を変える——レゲエのSleng Tengと同じ形の話が、ここにもある。

4点つながったら、それが地図の初期装備だ。細部はHISTORYの年表に、時代ごとのコラム付きで広げてある。

LV4

元ネタの森へ

ヒップホップを自分で掘る道具は三つある。

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元ネタの森へ

ヒップホップを自分で掘る道具は三つある。どれも今日から使える。

一つ目、元ネタで掘る。ヒップホップの多くの曲は、過去のレコードのサンプリングでできている。気に入った曲の「サンプル元」を検索してみる。60年代のソウルや70年代のファンクに着地したら、そのアーティストをまた聴く。1曲の床下から過去の名盤へ、過去の名盤から同じネタを使う別の曲へ。この往復は一生終わらない遊びで、ヒップホップが「音楽の聴き方」ごと変えたと言われる理由がここにある。

二つ目、客演網で掘る。LV2で覚えた客演は、掘りの道具でもある。好きなラッパーの曲のfeat.欄から知らない名前へ渡る。呼ばれている人は、呼んだ人が認めた人だ。人脈の網をたどるだけで、趣味の合う知らないアーティストに高確率で当たる。

三つ目、作り手で掘る。トラックを作った人——プロデューサーやトラックメイカーの名前で掘ると、声は違うのに肌触りが同じ曲がまとまって見つかる。J DillaやNujabesのように、トラックメイカー自身が主役の系譜もあって、そこまで来るとラップのない「ビートだけ」の音楽も楽しめるようになっている。

読み物の卒業先も揃っている。HISTORYのヒップホップ年表は6時代のコラム付き。DEEP CUTSには、サンプリングの倫理と快楽を生活者の目線で書く連載や、ドリル以降の東京を若い耳で書く連載がある。日本語ラップの現在は、ニュースとアーティスト名鑑が毎日追っている。

森は広い。だからこそ、入る価値がある。