HISTORY

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Global Hip-Hop Hip-Hop史

Bronx、黄金期、南部、Trap、Drill。

1980s-late 1990s

Golden Age / Boom Bap

サンプリング、韻、思想。ラップがアルバムの音楽になった。

Golden Ageはラップが急に賢くなった時代ではない。サンプリングで過去のSoul/Funk/Jazzを切り、スクラッチで時間を曲げ、グラフィティやファッションまで含めて「どの街の誰か」を見せた時代。Public EnemyA Tribe Called Quest、De La Soul、Gang Starr、NasWu-Tang Clanが、音の引用を思想とスタイルに変えた。

ヒップホップが流行から作法へ変わった十数年。Run-D.M.C.Def Jamがラップをアルバムで聴く音楽にした80年代半ばを助走に、サンプリングが表現の中心に据わる。過去のSoul、Funk、Jazzを切り、スクラッチで時間を曲げ、グラフィティやファッションまで含めて「どの街の誰か」を名乗る——引用が思想とスタイルに変わった。だが1991年、裁判所がサンプリングに値札を付け、作り方そのものが再設計を迫られる。その制約の中から93〜94年のクラシック密集が生まれ、南部が名乗りを上げ、90年代末にはRawkus周辺のインディがブーンバップの火を継いだ。以後のヒップホップ全部が何度でも帰ってくる母屋、それがゴールデンエイジだ。

聴きどころ

硬いスネア、ループのざらつき、声の押し出し、韻の密度。サンプル元だけでなく、どの小節を切り、どのドラムを足し、どの声を前に置いたかを聴く。

Timeline

1986

Run-D.M.C.以降、ロック、スニーカー、MV時代とも接続

1987-88

SP-1200(1987)とMPC60(1988)が登場し、80年発売のTR-808とともにプロデューサーの個性を前に出す

1988

Public Enemy、N.W.A.らが政治性とストリートの現実を押し出す

early 90s

A Tribe Called Quest、De La Soul、Gang Starrらがジャズ感を広げる

mid 90s

NasWu-Tang Clan、The Notorious B.I.G.らでNYの言葉が濃くなる

顔ぶれ/現場/レーベル

背景

サンプリングは借り物ではない

元ネタをそのまま貼るだけではヒップホップにならない。どこを切るか、何小節で回すか、どんなドラムを足すかで、過去の音が別の街の現在になる。

声のキャラクターが作品になる

ラップは歌唱力だけで測れない。声のざらつき、間、言葉の詰め方、息の抜き方がそのままスタイルになる。Boom Bapはその違いが見えやすい。

服とロゴも同じ史料

Dapper Dan、Polo、Tommy Hilfiger、カンゴール、Timberland。誰が何を着たかは脇役ではない。ジャケット、MV、雑誌の写真まで見ると、音とブランド記号が同時に広がったことがわかる。

日本の現場では

日本の初期ヒップホップも、この時代のNY/LAの映像、雑誌、レコード、ダンスから大きな影響を受けた。日本語で韻を踏む試行錯誤もここから本格化する。

ジャケット / 映像 / 服

トラックスーツ、カンゴール、ゴールドチェーン、バスケットボールジャージ、Timberland。音が硬いほど、服もシルエットで主張する。

関連キーワード

音源・人物・現場

Archive

要点

黄金期は名盤の山だけではない。サンプル、ラジオ、雑誌、ロゴ、ジャケットが一気に濃くなった時代。

サンプルの読解力

James Brown、Jazz、Soul、Funk。元ネタを知るほど偉いのではなく、どう切って、どのループを選び、どんな声を乗せたかを聴く。

クルー単位で掘る

Native Tongues、Wu-Tang、D.I.T.C.のように、個人より集団で掘ると景色が広がる。客演とプロデューサーの線を追うだけで記事が一本になる。

日本語ラップへの輸入

日本では雑誌、レコード屋、クラブ、ミックステープ経由でこの時代の耳が作られた。翻訳ではなく、どう日本語に落としたかを聴く。

関連キーワードNative Tongues documentaryDJ Premier sample breakdownWu Tang 36 Chambers
サンプリングが思想だった頃
編集部

1988年、Public Enemy『It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back』は、1曲に数十のサンプルを積んだとされる密度で、サンプリングという手法の天井を一気に引き上げた。制作班Bomb Squadのやり方は引用というより溶接に近い。James Brownのブレイク、サイレン、演説、ノイズを層にして、怒りの温度をそのまま音圧に変換した。

この密度を支えたのが80年代後半のサンプラーだ。E-mu SP-1200(1987)、そしてRoger Linnが設計に関わったAkai MPC60(1988)。SP-1200が録れる時間は合計10秒ほどとされ、この短さが逆に文化を作った。長く録れないから、ブレイクの一番おいしい瞬間だけを切る。12ビットの粗い解像度は、後年ブーンバップの質感と呼ばれる砂っぽい音の出どころになった。機材の制約がそのまま美学になった例である。

法律は遅れてやってきた。1989年、Tommy Boy所属のDe La SoulがThe Turtlesの曲の無断使用をめぐって訴えられる(和解の中身は公表されていない)。そして1991年12月、決定打が落ちる。Biz Markieの「Alone Again」をめぐるGrand Upright判決だ。ニューヨーク連邦地裁のDuffy判事は判決文を「汝、盗むなかれ」の一句で書き起こし、無許可サンプリングを著作権侵害と断じた。収録アルバムは回収され、この判決はサンプル使用前の権利処理を業界に強く意識させた。

この判決の前後で、作り方は二つに割れた。金のあるアーティストは払って堂々と借り、金のない者はサンプルを刻んで原型を消すか、そもそもの手法から締め出されていく。自由だった十数秒に値札が付いた。ゴールデンエイジの高密度なサンプリングは、クリアランス実務が定着する前後の音でもある。

1993-94という異常クラスタ
編集部

ヒップホップ史をアルバムの年表で眺めると、1993年から94年にかけて異常な密集がある。Wu-Tang Clan『Enter the Wu-Tang (36 Chambers)』(1993-11)、Nas『Illmatic』(1994-04)、The Notorious B.I.G.『Ready to Die』(1994-09)、OutKast『Southernplayalisticadillacmuzik』(1994-04)。のちに全部が「クラシック」と呼ばれる作品が、わずか一年ほどの窓に固まっている。

なぜこの密度が起きたのか。断定はできないが、条件はいくつか重なっていた。サンプリングの手法が成熟し、クリアランス時代の制約が「刻んで消す」新しい職人技を逆に育てた。80年代に育った世代が二十歳前後で最初のアルバムを出す時期に一斉に入った。そしてNYの東西南北——スタテンアイランドのWu-Tang、クイーンズブリッジのNas、ブルックリンのBiggie——が同時に代表を立てた。地元を名乗る動機が、作品の解像度を押し上げた。

『Illmatic』が象徴的だ。20歳のNasが、団地の窓から見える範囲の現実を、映画のカット割りのように書き切った。10曲、40分弱。長さで勝負しないこの禁欲が、以後のリリシズムの採点基準になる。同じ頃、Wu-TangはRZAの埃っぽいビートとカンフー映画の世界観で、9人という異常な人数を一つの神話に束ねた。

一年の密集は、あとから見れば黄金期の頂点だった。だが渦中の作り手たちは、頂点を作っている自覚などなく、ただ地元の代表として一枚を賭けていた。名盤が固まって生まれる時、たいていそこには自覚のない全力がある。

ジャズラップという和解
編集部

サンプリングが最も攻撃的に使われた時代に、正反対の方向へ進んだ一派がいる。ジャズを引用し、角を落とし、余裕のあるフロウで聴かせる——A Tribe Called Questを中心とするNative Tonguesだ。

1991年の『The Low End Theory』は、その到達点だった。Q-TipとPhife Dawgのかけ合いの下で、ベースはウッドベースの手触りを持ち、ジャズの巨匠Ron Carterが実際にベースで参加した曲まである。ジャズマンとヒップホップの若者が同じ録音に立つ——それまで別々の世代・別々の音楽とされていたものが、ここで和解した。攻撃性とは違う、ヒップホップの豊かさの証明である。

この和解には土台があった。そもそもヒップホップのサンプリングは、ジャズやソウルやファンクの過去を掘り起こす行為で、ジャズラップはその関係を隠さず前に出しただけとも言える。Guru『Jazzmatazz』(1993)のように、サンプルではなく生のジャズミュージシャンを招く実験も生まれた。

余談だが、このアルバムのタイトル『The Low End Theory』は、後年ロサンゼルスの伝説的なビートのパーティの名前に引き継がれた。低音の理論、という一枚の予言的なタイトルが、90年代のNYと2000年代のLAを一本の線でつないでいる。その先の話は、ビートシーンの時代で続く。

Lineage

系譜

01
系譜

Run-D.M.C. / Def Jamによるアルバム化(80s半ば)→ Bomb Squadのサンプリング密度(88)→ Grand Upright判決でクリアランス時代へ(91)→ 制約下の職人技と93-94のクラシック密集(Wu-Tang / Nas / Biggie)→ Native Tonguesのジャズラップという別解 → 90s末Rawkus周辺のインディが火を継ぐ。以後の全時代がここへ帰ってくる。

Essential

この時代の5枚

03
NasIllmatic』 (1994)

描写力の基準器。40分弱の禁欲がなぜ強いか

04
Wu-Tang ClanEnter the Wu-Tang (36 Chambers)』 (1993)

埃っぽいビートと9人の神話。契約の発明まで含めて歴史

アーティスト

この時代の10組