DEEP CUTS

余白の描き方——TeebsとDaedelus、水曜日が終わった後

画家のビートと、ヴィクトリア朝の服を着た発明家。そしてlo-fi beatsが均した余白の話で連載を締める。「Low End Theory以降のLA」最終回。

TEEBSDAEDELUSBRAINFEEDERLO-FI BEATS

最終回は、シーンの真ん中ではなく縁にいた二人から入る。縁といっても格の話ではない。絵の縁。余白の担当者の話だ。

Teebs、本名Mtendere Mandowa。ニューヨーク生まれ、ルーツはマラウイとバルバドス、育ちはLA郊外のチノヒルズ。スケートボードの怪我で滑れなくなって、絵に向かった人だ。画家としてまず名前が立ち、2008年のRed Bull Music Academyを経てFlying Lotusと出会い、Brainfeederに合流する。2010年の『Ardour』は制作に2年かかっていて、その間に父を亡くしている。

『While You Doooo』を三回聴き直した。ビートはある。でも拍を「打って」いない。鈴やチャイムの高域が水彩みたいに滲んで、キックはその滲みの下で紙の厚みくらいの存在感しかない。周波数で言うと、普通のビートミュージックが空ける中高域が埋まっていて、逆に低域に余白がある。塗り残しで光を描く水彩の手順を、そのまま音に移した人だと僕は聴いている。画家がビートを作ると、音量ではなく透明度で層を重ねる。

絵と音の兼業は、この人の場合、比喩ではなく実務でもある。Teebsの絵はレコードジャケットにもなっていて、自作のアートワークと音が同じ手から出ている。音源だけ聴くのと、ジャケットを見ながら聴くのとで印象が変わる作家というのは実は少ない。この人はその少ない側で、色数を絞って滲みで層を作る画面の作り方と、音数を絞って残響で層を作る音の作り方が、ほとんど同じ手癖に見える。

Daedelus、本名Alfred Darlington。こちらはシーンの最古参の一人だ。1999年からdublabで番組を持ち、Carlos Niñoの紹介でPlug Researchから2002年に『Invention』を出している。Low End Theoryより四年早い。ステージにはヴィクトリア朝のダンディの装いで立ち、機材は後にシーンの象徴になるグリッドコントローラー、monomeの最初期からのテスターだった。19世紀の服で21世紀の楽器を叩く。時代考証が二百年ずれた発明家。この人の曲の展開が数小節ごとに裏切ってくるのは、DJ的な持続よりコラージュ的な転換を選び続けてきたからで、『Fair Weather Friends』はその癖が一番良い形で出た一枚だと思う。

monomeについて少しだけ。光るボタンが格子に並んでいるだけの箱で、つまみもフェーダーも画面もない。何の機能を割り当てるかは全部使う側が決める。楽器が奏法を決めるのではなく、奏者が楽器の意味を決める。この思想の楽器を最初期から叩いていたのがDaedelusで、後にグリッド型のコントローラーがビートシーンの標準風景になったことを思うと、19世紀の服の人が一番未来側にいたことになる。

で、余白の話に戻る。Low End Theoryの週次の夜は2018年に終わった。そして同じ時期、世の中には「lo-fi beats」が無限に流れ始めた。勉強用、作業用、24時間。あの水曜日の音の子孫のような顔をして、余白だけが型として複製されていった。Flying Lotusは後年、この現象を「スターバックスの音楽みたいになった」と苦い言い方で評している。TeebsとDaedelusを聴き直してから戻ると、この苦さの意味がわかる。余白は、埋めなかった場所のことであって、最初から何も置いていない場所のことではない。塗り残しと白紙は違う。

連載を締める。床と配線、割れた低域、六弦の三階建て、水彩のビート。四回かけて書いてきたのは、結局ひとつのことだ。あのシーンは音の置き場所より、置かない場所の決め方が上手かった。僕が水曜の深夜にヘッドホンで確かめているのも、たぶん同じことで——空けてある場所が正しい音楽は、生活のほうの空白まで少しだけ許してくれる。置いたら音の話に戻る、が僕のルールなので、これで終わり。

『While You Doooo』『Arthur's Birds』『Fair Weather Friends』の順で。最初の二つは続けて、三つ目は少し間を空けて。余白の描き方が三人三様——Teebsが二枚、Daedelusが一枚だから正確には二人三様だが、『Arthur's Birds』と『While You Doooo』は同じ人の中の別の余白だ——通して聴くと、それが一番よくわかる。

(連載・完)

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