DEEP CUTS

棚じゅうに匂いだけがある——ガンジャとレゲエ、百年の距離

インドから来た草が聖礼になり、弾圧され、放送禁止の歌になった。レコード屋の棚から見た、ハーブとこの音楽の百年。日本で聴く俺らの立ち位置まで。

GANJARASTAFARIPETER TOSHREGGAE HISTORY

うちの棚のレゲエの列は、ジャケも曲名も、まあその、草の話だらけだ。何十年この商売をやってても、レジで若いのに「これって、そういう歌ですか」と聞かれる。そういう歌だよ。先週も一人いた。ジャケを裏返して、しばらく黙って、それから小声で聞いてきた。悪いことを聞くみたいな顔でな。ただし、お前が思ってるより長くて重い話がケツに付いてる。今日はそれを最初から通しでやる。嫌なら別の記事を読め。でも読んだら、棚の見え方が変わるって話だ。

まず、あの草はアフリカから来たんじゃない。インドから来た。1850年代から60年代、奴隷制が終わったあとのジャマイカに、インドから年季奉公の労働者が連れてこられた時代があって、草はその流れで島に入ったとされる。ガンジャって言葉自体がインド系の言葉だ。レゲエの歌詞に出てくるあの単語は、ヒンディー語の親戚ってわけだ。俺はこれを知ったとき、棚のインド音楽の列とレゲエの列の間の距離が、ちょっと縮んで見えたよ。音楽は港から港へ渡るが、言葉と草も同じ船で渡ってたって話だ。

で、1930年代にラスタファライって信仰がジャマイカで生まれる。彼らにとって草は嗜好品じゃなくて聖礼——教会のワインみたいな位置づけで、集まりの中で使われる宗教の道具だ。ここ、雑に流すなよ。「レゲエの人はみんな吸ってる」みたいな雑な絵は、信仰の話を娯楽の話に潰してる。聖礼と遊びは違う棚だ。しかもこの信仰の集まり——reasoningって呼ばれる話し合いの場——では、太鼓と詠唱と踊りが一緒に鳴ってたとされる。つまりラスタの音楽ってのは、集会の中から育った音だ。スタジオより先に、輪になった場があった。後のレゲエがどれだけ電気を通っても、芯のところに集まりの鼓動が残ってるのはそのせいだと俺は思ってる。

ここで一回脱線するぞ。さっき聖礼を教会のワインに例えたが、あれは俺が楽をした例えだ。考えてみろ、うちの棚にワインを讃える歌なんて一枚もない。ガンジャの歌は棚一列ある。何でか。片方は最初から許されてて、片方は禁じられてたからだ。許されたものは歌にならない。禁じられたものだけが、百年歌い続けられる。……ほら、回収しただろ。この列がこんなに長い理由そのものだ。

ところが法律は先回りしてた。ジャマイカで草が違法になったのは1913年。ラスタが生まれる前だ。つまりこの信仰は、最初から違法の側に生まれ落ちてる。そして1963年4月、モンテゴ・ベイのコーラル・ガーデンズで衝突をきっかけに当局がラスタを一斉に拘束した。首相の指示があったとされる。ドレッドロックスを切られ、死者も出た。政府がこの件を公式に謝罪したのは2017年。事件から半世紀以上あとで、当時殴られた側の多くはもう生きてない。慰謝の信託基金が作られて、やっと国が「あれは起きてはならなかった」と言った。

……音楽の話をしに来て、なんでこんな話をするのかって顔をしてるな。逆だ。この話を知らないと、あの音楽は聴けない。

1976年、Peter Toshが『Legalize It』を出す。タイトル曲は本国で放送禁止になった。警察から受け続けた暴力への応答として書かれた曲だとされる。ここが肝でな、あれは「楽しくキメようぜ」の歌じゃない。殴られてる側が、殴ってくる法律そのものに正面から出した抗議文だ。放送禁止になったってことは、それだけ真に当たってたってことだよ。レゲエにおける草の歌ってのは、快楽の歌である前に、信仰と弾圧と法律の歌なんだ。棚じゅうにあるのは匂いじゃなくて、その記録だ。

時代は動く。2015年、ジャマイカは少量の所持を軽微な扱いに変えて、ラスタの宗教使用を認めた。Toshの歌から約40年。あの島の中では、法律と信仰の距離が少しだけ詰まった。

で、最後に俺らの話だ。ここは日本で、この国では大麻は違法。2024年12月の法改正からは使用そのものも処罰の対象だ。つまり俺らは、この音楽を、歌われてる生活と自分の生活が重ならない場所から聴いてる。それを気まずいと思う必要はない。Toshが歌ったのは自分の島の法律と自分の暮らしの話で、俺らが聴くべきなのはその構造のほうだ。誰が何を信じて、誰に殴られて、それでも何を歌ったか。距離があるから見える形ってのがある。輸入盤ってのは元々そういうもんだ。音は届く、生活は届かない、だから記録として聴く。ちなみにこの国の合法の枠——CBDまわりの制度の確認先——は「CBDガイド」のページにまとまってるから、事実はそっちで見ろ。

ってわけで、聴く順番。まず『Legalize It』を、今日の話を頭に入れて聴き直せ。次にMarleyの『One Drop』で、信仰がリズムそのものに入ってる形を確かめろ。締めはCultureの『Two Sevens Clash』だ。予言と不安と信仰が一枚になって鳴ってる。棚に染みてるのは煙じゃない。百年ぶんの記録だ。知らんけど聴け。

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